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特集1. 「市川ロジスティクスセンター」リニューアル
DXで進化する持続可能な次世代型物流拠点へ

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ハピネットグループは、物流業界で深刻化する人手不足や環境負荷の課題に対応するため、「ハピネット市川ロジスティクスセンター」(以下、市川ロジスティクスセンター)の大規模リニューアルを実施し、2024年9月に稼働を開始しました。業務プロセスの最適化、安全性の向上、再生可能エネルギーの導入などを通じて、将来を見据えたより持続可能な物流基盤の構築を目指しています。

持続可能な物流拠点への進化

市川ロジスティクスセンターは、ハピネットグループが取り扱う玩具・ゲーム商材の入出荷を担う主要拠点です。2001年の稼働開始当初は最新設備を備えた中核拠点として機能していましたが、20年以上が経過するなかで設備の老朽化が進み、故障頻度の増加や部品調達の難しさといった運用リスクが顕在化していました。

さらに近年では、物流業界全体で人手不足が深刻化しており、特に物流拠点が集中する地域では人材確保が難しくなっています。今後の労働人口減少を見据えると、安定した物流体制とサービス品質の維持には、業務の自動化・省人化や作業環境の改善といった取り組みが不可欠です。

こうした状況を踏まえ、ハピネットグループは2024年、「自動化×省人化×瞬間的な爆発力(出荷能力)を実現する物流センター」をコンセプトに、市川ロジスティクスセンターのリニューアルに着手しました。移動作業の自動化・省人化を進めると同時に、環境負荷の低減やBCP(事業継続計画)への対応力を高めるなど、社会課題を包括的に捉えながら、将来を見据えた物流基盤の構築を進めています。

「自動化×省人化×爆発的出荷能力」を実現する最新設備

今回のリニューアルでは、物流拠点としての機能を飛躍的に高める3つの先進設備を導入しました。

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① 自動倉庫「ファインストッカー」

ファインストッカーは、コンテナや段ボールケースをシャトル台車やクレーンで自動搬送・保管・出庫するシステムです。高さ5.5mの空間を活用し、最大22,000個のケースや折りたたみコンテナ(オリコン)を収納可能。これにより、省スペースでも高効率な保管と迅速な出庫が実現しました。作業者が倉庫内を歩き回る必要がなくなり、作業時間の短縮やミスの削減、在庫管理の精度向上に寄与しています。

サイトキャプチャ
12人まで作業が可能なピッキングステーション。1時間あたり 約7,000㎰のバラピッキングが可能。
サイトキャプチャ
自動倉庫内のケースピッキングは完全自動で実施。仕分け機(リソニート、T-carry)へ自動搬送される。

② 高速自動仕分け機「リニソート」

高速自動仕分け機「リソニート」を最新版へと更新し、より効率的かつ高精度な仕分け体制を構築しました。機械が商品に貼付されたバーコードを自動で読み取り、178店舗分の仕分けを同時に行うことで、1時間あたり最大13,000個の商品を処理できる体制を確立。自動読み取り機能の強化により、作業のスピードと精度が向上し、現場の負担軽減とサービス品質のさらなる向上につなげています。

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自動読み取り機

③ 「T-carryシステム&シャッターアソートシステム」

無人搬送ロボット(AGV)がピッキング済みの商品を作業者の元まで自動搬送し、シャッター式のアソート装置(SAS)で180店舗分の仕分けを同時に実施。38台以上のAGVが9,000個の商品をステーションに運ぶことで、現場の作業負担を軽減しながら、安定した処理を実現しています。また、従来の設備では対応が難しかった形状や、取り扱いに注意を要する商品にも柔軟に対応できる体制を整え、より多様なニーズに応えられる仕組みを構築しています。

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商品を作業者の元まで自動搬送する無人搬送ロボット

これらの設備はすべて、「人がモノの元へ行く」のではなく「モノが人の元に来る」という「GTP(Goods to Person)」の考え方に基づいており、作業者の移動距離を減らし、身体的負担の軽減と作業効率の向上を両立させています。さらに、作業手順が単純化されたことで、習熟までの時間も短縮され、新人や多様な人材でも安定したパフォーマンスを発揮できる環境が整いつつあります。

また、各設備は作業進捗や生産性に関するデータをリアルタイムで取得できるため、従来の「経験と勘」に頼った運用から、データに基づいた分析と改善へとシフトしました。これにより、業務の最適化を継続的に推進できる体制が整っています。

さらに、複数の自動設備を連携させる新体制では、各設備の稼働状況を見極めながらの人員配置が求められるため、現場マネジメント力の向上にもつながっています。

作業環境と安全性のさらなる向上

リニューアルによって歩行量が大幅に減少したことで、作業員一人ひとりの身体的負担が軽減されました。また、機械設備の導入に伴い、出っ張り箇所への安全カバー設置や、頭上注意喚起のPOP掲示、手すり幅の最適化など、安全対策も徹底しています。作業者とフォークリフトが交錯する新たな導線にも配慮し、現場の声を取り入れた運用ルール整備を進め、安全で働きやすい物流現場づくりに取り組んでいます。

今回のリニューアルは、短期的な省人化だけでなく、将来を見据えた人手不足リスクへの対応でもあります。今後も拡大する事業に対応できる柔軟で安定した物流体制の実現を目指し、業務の最適化やデジタル活用を継続して進めていきます。

太陽光発電設備の導入による環境負荷低減と災害対応力の強化

市川ロジスティクスセンターの倉庫棟屋上には915枚の太陽光パネルを設置。施設全体の消費電力の約15%を自家発電でまかない、年間を通じて150トンのCO₂排出量削減を見込んでいます。

また、太陽光発電により、地震などの大規模災害時でも停電を回避し、最低限の電力供給を継続できるBCP対応力を備えました。蓄電設備はありませんが、大規模な地震などの災害発生により電力が遮断された場合でも、太陽光発電設備自体にダメージがなければ太陽光発電分の電力が供給され、ライフラインの完全停止を回避することが可能となっています。

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倉庫屋上に設置された915枚の太陽光パネル

稼働を止めずに実現した段階的リニューアル

今回の大規模リニューアルは、センターの稼働を止めることなく、入出荷業務を継続しながら進められました。工事エリアを限定しつつ、使用可能なエリアでの作業を一時的に手作業対応へ切り替えるなど、綿密なスケジュール調整と柔軟な運用によって、お客様への影響を最小限に抑えました。

自動設備はその特性上、突発的な変更対応が難しい場面もあります。前後工程との連携や他業務への人員シフトを工夫しながら、今後は全体最適を追求していきます。

ハピネットグループは今後も、社会課題の解決と事業成長の両立を目指し、サステナビリティ経営を推進していきます。そして、より柔軟で安定した物流体制の構築を通じて、持続可能な未来づくりに貢献していきます。

担当者の声

(株)ハピネット・ロジスティクスサービス BPRチーム 渡邉 翔太

物流DXがもたらす「新たな価値の創造」

私は本リニューアルプロジェクトに、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)チームの一員として参画しました。導入前は設備仕様の把握に努め、稼働後は現場と業者の橋渡し役として運用サポートに従事し、現場から上がる課題の抽出と対策のとりまとめ、スケジュール管理などを担当しました。

最も苦労したのは、多岐にわたる課題に対して実現可能な計画を立て、確実に進捗を管理することでした。「現場稼働を止めない」という絶対条件のもと、工事期間中も運用やレイアウトを随時見直しながら入出荷業務を継続する必要があり、現場メンバーと密に連携しながら慎重に対応を進めました。

新しい設備の教育では、完成したマテハン(※)設備を実際に見せながら説明を行い、作業イメージの定着とモチベーション向上につなげました。普段は変化に慎重な作業者たちが、最新設備に関心を示し、前向きに受け入れていたことが印象的でした。

設備導入後は、ピッキング工程の効率化が顕著に現れました。従来は作業者が倉庫内を歩いて商品を集めていましたが、自動倉庫の導入により商品が手元まで搬送される仕組みとなり、歩行負担が大幅に削減されました。仕分け機への搬送も自動化され、作業手順が簡素化されたことで、ヒューマンエラーの防止にもつながっています。

今回のリニューアルを経て、物流DXに対する認識が大きく変わりました。これまでは「効率化」が主な目的という印象でしたが、今では「新たな価値の創造」だと感じています。作業の省人化、簡素化、負担軽減を通じて働きやすい環境を整え、高齢化社会に適応した新しい職場づくりにも貢献できると考えています。

現在は社員の定型業務の自動化にも取り組んでおり、浮いたリソースを新たなチャレンジに振り向ける体制づくりを進めています。これからも現場と一体となり、より良い物流環境の実現に挑戦していきたいと思います。

  • ※ マテハン:マテリアルハンドリング。モノの移動・保管・仕分け・梱包などを効率化・自動化する技術や機器全般。
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渡邉 翔太

(株)ハピネット・ロジスティクスサービス 市川ロジスティクスセンター 今井 謙治

環境負荷を減らす一歩を、物流現場から

市川ロジスティクスセンターの責任者として、今回のリニューアルでは、導入準備から稼働後の安定運用まで幅広い業務を担当しました。具体的には、新設備導入に向けたマニュアル作成や作業者教育、備品整備、スケジュール管理に加え、稼働後の年末繁忙期における安定稼働の確保、そして年明けからは最大効率化を目指して社員の業務割り振りや現場改善に取り組んでいます。

太陽光発電設備の導入にあたっては、業者や物件オーナー会社との調整、契約関連業務、現場との連携など、多岐にわたる対応が求められました。当社の電力使用実績をもとに期待効果を試算し、コストとメリットを慎重に比較検討した上で導入を決定しました。

特に印象に残っているのは、建物構造計算の結果、屋根の強度不足が判明し、当初計画していたパネル設置枚数を半分に減らさざるを得なくなったことです。建築から20年以上経っている物件であることも影響しているかもしれません。その後、あらゆる方法を検討したものの、結果的に当初想定していたパネル枚数の約半分で設置することになりました。再度、期待効果などを試算し、投資回収を含めてまだメリットがあることがわかったので導入を継続することになりましたが、この点が一番の難関でした。

今回の取り組みを通じて、物流は単に商品を届けるだけでなく、グループ全体の環境負荷低減にも貢献できるという実感を得ることができました。物流現場のアクションが、企業価値の向上につながることを実感できたことは、大きな励みになっています。

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今井 謙治